第5章 部下

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[伍] 「ずっと父と一緒だったんですか?」 と僕は笑わずに聞いた。この時点で週刊誌を読んでいたことを忘れてしまった。 「そうやねえ。同じ営業所での部下時代を合わせるともう15年ぐらいになるんかなぁ。お父さんの事を知ったのはもっと前やけど。」 「僕が会社に入社した時は、藤崎さんはもう売れている営業マンだったからなぁ。憧れの先輩で怖い人やったなぁ。」 と大迫さんは懐かしそうに話した。 「そんなに仕事が厳しかったんですか?」 「うん。厳しかったなぁ。他の人とは、違うところがね。」 「違うところ?」 「うん。他の上司が『新規の訪問社数や飛び込み社数が少ない』って怒るようなところは全然怒らなかったけど、『遅くまで働くな!』とか『煙草の火をつけるのが遅い』とか『酒の注ぎ方が悪い』とか言ってよくしばかれたよ。」 「なんですか?その傍若無人な体育会系な態度は?仕事に関係ないんじゃないですか?」 オヤジならやってもおかしくないなとは思ったが、なんか一世代古いかな?とも思った。 「その時は無いなぁって思っていたけどね。ところが後でそれが役に立ったんだなぁ。 でもねえ君のお父さんってほとんど昼間はマンガ喫茶でお茶をしてたからなぁ。一緒に研修で同行した時なんかは、お客さんのところには1件も寄らずに営業所から直行で漫画喫茶に行って『今日のノルマはこれだけや』とコミックを20冊テーブルに積んでいたかな。」 大迫さんは笑いながら懐かしそうに話した。
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