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[拾伍]
「誰がオッサンや。」
安藤さんがそう言ってオヤジが飲み干したビアグラスを下げた。
「お代わりは?」
「そうやな。もう一杯貰うわ。」
「ほい」
安藤さんは新しいグラスにまたビールを注いでオヤジの前に置いた。
そのグラスを受け取ってオヤジは話を始めた。
「大迫よ。人生は何のためにあるか知っているか?」
「さあ、分かりません。」
「それはな、美味しいお酒を飲むためにあるんや!」
「ホンマですかぁ?」
大迫さんは鼻で笑いながらオヤジに聞き返した。
「ホンマや。だから美味しい酒が飲めている今の状況以上に求めるものは何もない。」
オヤジもにやけながらその話を続けている。
「そうなんですかぁ・・・大将は美味しい酒が毎日飲めていると……」
「そうなんですよぉ……大迫君。」
「いいですねえ。だからこれ以上は望まないと……」
「まあ、そういうこっちゃ。俺は飢えた狼よりも太った飼い猫を選ぶ人間や。」
「飼い猫って感じはないですけどね」
「ほっとけ。ところで、お前は美味しい酒が飲めてるかぁ?」
「まあ、大体は……昔みたいに飲みには行きませんけど」
「まあ、美味しいお酒が飲めているならそれでええ訳や。お前もちゃんと生きてるやんか」
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