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「仕事かと思いました。でも、違うんですよね?」
驚いた表情を一瞬見せ、笑っている。
「仕事だと思ったのか。そうだよな、無理もない……」
彰にしてみたらいい迷惑なのかもしれない。突然上司に呼び出され、仕事じゃないと言えば何なのだろうと更に疑問に思うだろう。
「俺、何かヘマしました? そうならそうと云ってください。まだ仕事も判らないことばかりだし、迷惑かけたのなら謝ります」
俯いたまま、膝の上で手を握り恐縮しているのが伝わってきた。
「仕事は関係ない。ただ、俺が君を好きになってしまっただけだ。だから、デートに誘っただけ」
恥ずかしげもなく淡々と語る天野の横顔に視線を移した。唖然としている顔が見なくても天野には判っていたが平常心を保とうと運転に集中する。
「突然すぎてビックリするよな。でも、誰かに奪われる前に俺がそうしようと思っただけだよ。引くよな……マジで。嫌なら引き返すけどどうする?」
ちょうど、高速道路のインターを入ったところだ。引き返すと言っても手遅れな状態なのに、冗談がキツイ。
「俺が好きって……課長って男が好きなんですか?」
はっきりと言われれば、正直に頷くしかない。縦に首を振ると、恥ずかしそうな顔を見せた。
「岡部も俺のこと好きだと思ったんだが、違ったか?」
どんどん速度が上がり、追い越し車線に入ると一気に走行車線の車を抜いていく。メーターも制限速度を超えているが、車の安定感は高速になるほど地に密着して気持ちがいいほどに乗り心地が良くなってきている。
「好きですけど……そういうのと違う気がします」
断るのも悪いような、選択の余地がないまま流されていく彰は、初めてのことでドキドキしていた。
「じゃ、これから岡部の云うそういうのを感じてくれ。俺はお前を離すつもりはないし、誰にも触れさせたくないから」
強引すぎるくらいに可笑しなことを口走る天野に不満を募らせているはずなのに、嬉しさがにじみ出て来た。彰は頬が赤くなり、身体中が熱くなってきている事に気が付いた。自分自身も喜んでいるんだろうか。
「僕の気持ちはどうなるんです? 困ります……上司として尊敬はしてますけど、恋愛感情ではない、と思います」
一瞬はっきりと断ろうと言いかけて、何故が思いとどまっている自分に動揺が生まれた。
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