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実はハルクはその一つに、無責任な行動を取った罰として、数ヵ月に渡る長い謹慎処分を受け閉じ込められていたのだ。
勿論大怪我を負っている彼女を心底労りたい両親だったのだが、国の王位継承者を失うという大惨事を招いたハルクにお咎めなし、では国民に示しが付かなかったのである。
謹慎でもかなり甘い処分ではあったが、これが精一杯だったらしい。
「私はこいつを止めなかった。無責任であった事には変わりない。それに……あそこは静かで勉強がはかどった。小窓からはお前が訓練している姿もよく見えたしな……」
ハルクは棺を軽く撫でながら、とぎれとぎれに漏らしている。
ラインスには、ここに来てようやく見えた。
抑揚なく語り続け、無表情を貫いている彼女の、本当の表情が。
「もういいのです。貴方が我慢する事など何一つありません」
そして棺に置かれていたその手を優しく引くと、ラインスはハルクを抱き締めた。
――何と細く、華奢な体なのだろう。
大会の時には気付けなかったが、今自分が胸に抱いているのは、間違いなく一人のか弱い女性。
確かに鍛えてある為逞しくもあるのだが、自分のそれとは比べ物にもならない。
「ここには俺とゲオルグ様しか居りません。……泣いてもいいのですよ」
しまった、またハルクに向かって俺、と言ってしまったな、とラインスは内心小さく慌てたが、ハルクはそんな事は全く気にした様子はない。
「……誰が……」
ふっ、とハルクは何時もの様に不敵な笑みを浮かべたのだが――。
「駄目なんだ、自分の身勝手さに時折無償に腹が立つ!」
そう叫ぶと、ハルクはラインスの腰に強く腕を回しながら、肩を震わせた。
「父に言われた通り、あれは詭弁だ! 国民を守る様な事を口走った次の瞬間には、見捨てている! それに気付かされるのは決まってかなりの時間が経った後だ、私は……。そんな自分を堪らなく醜く思う」
ハルクの言うあれ、とは、国王にラインスとの婚姻を認めさせようと語り続けた台詞の事である。
見捨てたとまで言ってしまうのは、ハルクがラインスに付いて国を出る、と騒いだ事を指すのだろう。
「私は、国を統べる為の広い視野を持たない。……きっとこいつも、こんな私をさぞ恨んでいる事だろう……」
ハルクは、未だ俯いたまま、ラインスの方を見ようとはしない。
「ハルク様」
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