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ラインスは、そろ……とハルクの頬に手を添えると、自分の方へと引き上げた。
思った通り、ハルクの隻眼から一筋涙が伝う。
そして思った通り、彼女は思い切り眉をひそめていた。
「このっ、何をす……んっ?」
ハルクは涙を見られて頭に来た様だったが、ラインスが傷跡に唇を落として来た事に仰天し、固まる。
「醜くなんかない。貴方は誰よりも美しい……」
「はぁ?」
しかし、ラインスの真直ぐな言葉に、ハルクは呆れた様な声を上げた。
「お前の目は相当の節穴の様だな!」
とは言うものの、ハルクは再びラインスの胸に顔を埋めて来る。
恐らく、これは彼女なりの照れ隠しなのだろう。
それが解ったラインスは、彼女が堪らなく愛しく思えた。
頬に添えていた手はハルクの後頭部に回す様にして、より強く抱き締める。
「節穴だろうが何だろうが構いません。お陰様で恋敵の何と少ない事か」
当然、節穴だなどとは毛程も思っていないが、ラインスはハルクの耳元でまずこう言ってやってから、声を落とした。
「ゲオルグ様が貴方を恨む事など、あろうはずがない。あるとすればそれは、命懸けで救った貴方が不幸になった時です」
「…………」
「ゲオルグ様は誰より貴方を慕ってらっしゃいました。だからこそ、最期の日に実力を見せたいとおっしゃった私の所へではなく、貴方の所へとまず足をお運びになったのでしょう」
「ラインス、苦しい」
「あ、申し訳……」
流れでまた謝りそうになってしまったラインスだったが、何とか続く言葉は呑み込んだ。
名残惜しかったが、仕方なくハルクを放す。
「全く、死ぬかと思ったぞ。もう少し加減をしろ、馬鹿者」
「はい……」
やってしまった。つい、と、ラインスはどうにも居たたまれなくなる。
今頃顔が熱くなるのを感じていた。
「すまなかったな」
「……え?」
しかし、続くハルクの言葉にラインスは耳を疑う。
「お前が問うて来た様に、私はあの日ゲオルグを無理に連れ出した、と言った。それでいいと思っていたし、誰にも真実を言うつもりはなかった。だが……」
「だが?」
「だが結局私は、お前に見捨てられるのが恐かった。出来るだけ自分をよく見せようと……。そして今また身勝手な行動に出て、お前を連れ回している」
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