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ラインスは正直面白くなかったのだが、ハルクはラータの要人を招いた折りの、用心棒の様な仕事まで引き受けてしまっているのである。
そこへ来て、これか? とラインスは、ハルクから再び花園へと視線を戻す。
言われてみれば、確かにゲオルグの手に掛かった物と比べてかなり雑。彼女らしい、といえば実に彼女らしい。
そして、確かに雑だが、季節によって咲く花の構成はしっかり取れており、そんな所は彼女の知識の高さを垣間見せてくれる。
この辺りも一緒に勉強した物だったな、とラインスは口元に拳を添える様にして笑った。
「お前は本当に、遠慮なく無礼になったな」
「えっ!」
何時の間にか、ハルクは口を尖らせ、目まですがめてこちらを見ている。
「あ、いえ、違うんです、これは」
貴方を可笑しく思っているのではありません、多分思い出し笑いです、と詳しく説明するのも変だ。しかし要らぬ誤解は招きたくない。
「貴方が愛らしくて、つい」
馬鹿か俺は――! と言った瞬間、ラインスは頭を抱えたくなった。本当に、咄嗟には巧い言い訳が出来ない。思っている事が、そのまま外に出てしまう。
自分は嘘がつけないと、こんな所でつくづく思い知らされた。
ハルクがこんな言葉を喜ぶ訳がない、と、ラインスはこの一瞬で落ち込んだ訳だが、そのハルクは。
「…………」
明らかに唖然としている。
どうやら先程の「美しい」発言も相まって、より彼女を呆れさせてしまった様だ。
そう考えたラインスは、何とか取り繕おうと奇妙な両手の上下運動付きで説明を試みる。
「ハ、ハルク様、あの、自分は何も貴方の外見を言っているのではなくてですね……」
ところが彼の意に反して、ここまで聞いたハルクは急に立ち上がり、頭を振りながら大きく溜め息をついて見せて来た。
「やはりそうか。柄にもなく期待してしまったではないか」
ふん、とハルクは、まず皮肉な笑いを口元に浮かべる。
「悪いが、こればかりは直し様がないからな。妥協してくれ」
そして自身の顔を指しながら、今度は声を上げて笑い出した。
これもやはり、彼女の冗談なのだろう。ただ台詞の半分程度は本音らしく、どこか残念そうな気配がある。
それを奇跡的に悟る事が出来たラインスは、恐る恐る口を開いた。
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