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「内面について続けるつもりでしたが、その……私の目には、お顔も愛らしいと……」
しかし緊張から、紡ぐ言葉がまるで、叱られた幼児の様にたどたどしくなる。下手を打った、と早くも頭を抱えたくなっていたが、ハルクは。
「……本当に、お前の目が節穴でよかった」
と、彼の言葉に柔らかく微笑んだのだった。
ハルクと言えば大抵憮然としているか、笑うにしても口元を歪める皮肉な笑い、若しくはあけすけな大笑いか……。
ラインスが彼女のこう、純粋な笑顔を見たのはこれが初めての事だった。
それを見たと同時に、驚く程自然にある事を悟る。
何故今まで解ってやれなかったのか。
――いや、解らないふりをしなければいけない気に、なっていただけなのかもしれない。
『私は王家の姫とはどうあるべきかを教師どもに叩き込まれ、そんな毎日が嫌で、つらくて、堪らなかった』
何時かのハルクの言葉が、ラインスの脳裏をよぎる。
『いずれは国の為に嫁げと、そればかり。逆らって、結局ドレスも着ませんでした』
王族などと一口に言ってしまえば、かつて自分も思っていた様に、どうしても何もかもを手に入れている存在に見えてしまう。
しかし実際、主として君臨せよと将来を約束された男子とは違い、王族や貴族の女子と言えばどこの国でも政略の道具となるのが世の常。
ハルクが他国の姫と違うのは、それをよしと出来ない強い反発心、そして――誰にも有無を言わせぬ実力を身に付けるだけの、ずば抜けた向上心を持っていた事。それは誰に聞かずとも容易に悟ることが出来る。
だがきっと彼女も例に漏れず、物心付く頃には既に女としての心を様々な力に踏みにじられて来たのだろう。
色々積み重なってしまったその結果が、現在の彼女の姿全てなのだ。
「……貴方には控えめな銀のティアラと、白いドレスがお似合いですよ。きっと、いえ、必ずお贈りさせて下さい」
ハルクの微笑みに返す様に、ラインスも微笑んだ。
「ドレスだと!? この私にか! 全く、お前は勢い付くと妙に口ばかりが達者で……」
またハルクが何やら言い掛けた様だったが、何を言われるかなど百も承知のラインスは。
「愛しています、心から」
と、ハルクの言葉を遮る。
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