終 章 真相

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 そして顔を真っ赤にしながらもやや強引に彼女の腰を抱き寄せ、ほんの一瞬ではあったのだが、確かに唇に口付けた。  これにはさすがのハルクも嬉しさなのか、やはり動揺なのか面食らった様だったが、続くラインスの言葉に青ざめる事になる。 「祖国の事にケリが着いたら、必ず貴方を迎えに来ます」 「……やはり国に戻るつもりなのか」 「勿論今直ぐに、という訳ではありません。しかし今のままでは、貴方と結ばれるなど到底無理な話です。ご存じですね、私の罪は」 「ああ。だが、それがどうした。話を聞いた分には正当な行為ではないか」 「気になる事があるのです。それを確認しなければ」  ラインスがずっと気に病んでいた事、それは兄の生死。  彼は実兄サージを刺した後、確認もせず飛び出してきた。  追っ手は確かにあったが、それは今思えば領内に留まっており、海を越えてからはそういう意味で危ない目に遭った例しはない。  更に疑惑を深めるのが大会で偶然会った元同僚、ケルヴィンの態度である。  自分でそう考えるのもどうかとは思ったが。  ゼルフォン家といえば、ラータでも指折りの上位貴族である。そんな家で起こった事件と言えば、どんなに些細な事柄でも、人から人へと噂が伝わるうちに何時の間にか大問題に発展してしまう物なのだ。  だがケルヴィンは、ラインスのしでかした元よりの大問題を知らない、と言っていた。  気にするまいとも思ったのだが、やはりそういう訳にもいかないだろう。 「……行くな、とも言えんな」  ラインスの呟きに、ハルクが大分間を置いてから応えた。 「確認するならさっさと行って来い。こちらでも聞き込みはしておく」  聞き込み? 誰に――。 「ハルク様、まさかそれでラータからの仕事をお受けに?」 「ふん、自惚れるな。報酬がよかったからに決まっているだろう」  王女が報酬目当てで仕事をする、というのも可笑しな話だが。 「……待っていて頂けますか?」  未だにハルクの腰は離せぬまま、ニコリと微笑みながら言ってみた。 「それは構わんが、こちらにも譲れないものがある」
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