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1 14年ぶりの秋
あぁ、やっと終わった。
カルテを書き終え、窓辺の明るさに引き寄せられるように歩み寄ると、
カラリとガラスを引き開ける。
ウロコ雲の浮かぶ空は、透明感を感じさせるほど青く澄み、
高く、大きく広がっていた。
その下で、さっぱりとした空気を運んでくる午後の風は、
わずかにひんやりとしてきて爽やか。
そんな解放感に誘われるように、亜由里は小さく伸びをした。
ここは、30年以上前に
彼女の父が、自宅兼用で開いたカウンセリング・クリニック。
しかし二年ほど前から、それを彼女が受け継いでいる。
白い壁と緑の屋根。
少し急な坂道を上った小高い丘の中腹に建つ古い洋館風の家の姿は、
目の前の坂道を登りきった所にある公園からも、見下ろすことができる。
そして一年を通してよく風が通り、日当たりもとても良い。
しかも、クリニックからもダイニングからも、
窓の向こうには遠く海が広がり、
空気の澄んだ季節には、富士山さえ拝むことができる。
しかし子供の頃、亜由里は、この場所に不満を抱いていた。
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