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恵は紅音にとって仲の良い友人だと紅音は思っていた。
恋愛相談をしたりもした。だからこそ、わかっていると思っていた。
だからこそ、自分は恵を理解していると思っていた。
彼氏が途切れずにいる恵。たまに湖夏のことを芸能人を見るように、はしゃいでいたこともあるけど、彼氏が一番とノロケてもいた。湖夏に告白されたけど断ったことも話した。
その時の恵の表情は思い出せない。
ただただ、友人として戻れないという気持ちだけが紅音を支配し、涙する。
「あ…ぱ…!…かね…い!あか…先…!紅音先輩!」
「ふぁ?」
いつの間にかそのまま寝てしまっていたようで、揺さぶられ、声を掛けられ、目を覚ます。
すると目の前には、心配そうな表情の湖夏と焦げ茶の髪に眼鏡に似合う普通の男子学生がいた。一気に目が覚めた紅音は顔を赤らめる。
「なんで…?」
「話は聞いた。狼御が迷惑掛けてごめんね」
申し訳なさそうに話すのは男子学生。
この男子学生は湖夏とは幼なじみで、紅音の片思いの相手、三年生の陽平'ようへい'。
初めて見た顔を赤らめる紅音の顔に湖夏は、少し下を向いて、パッと顔を上げると冗談っぽく手を合わせて謝ると、そそくさといなくなる。
しかし、湖夏は2人の見えない位置の木に身体を預け、座り込む。
「あんな表情、私にはさせてあげれないな」
悔しそうにそう呟くも、その言葉は誰の耳に届くことはない。
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