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「だってわらびもちはわらびもちじゃん。二千円でもわらびもちじゃん」
「……」
「わらびもちがケーキにでもなるわけ?わらびもちは所詮わらびもちだし」
「もういい黙ってろ」
「お前が話振ってきたんじゃん」
「うっさい」
「つーかお前さぁ、何でそんな事でいちいち怒んの?」
「いいから、死ね」
「誰が死ぬか!お前が死ね!」
部活動に励む青春と比べたら、なんと実りのない会話であろうか。優人は立ち上がったまま、彼は座ったまま睨み合う。たかがわらびもち一つで何をそんなに怒っているのか。そもそも何だ、二千円のわらびもちって。
するとガラッと生徒会室のドアが開いて、二人とも同時に扉の方を睨みつけた。
「お疲れ様で……あ」
その扉を開けたのは書記の女子生徒であった。
普段の優人は自分でも自覚がある程常に温厚で、クラスや生徒会室で怒ったことなど一度も無い。「明るくて真面目な生徒会長」というイメージを常に守ってきたつもりだった。こんな風に感情を露わにするのは、彼の前だけなのだ。
優人はつい彼に向けた言葉の勢いをそのままに、何の罪も無い彼女を睨みつけてしまったことに少しだけ焦った。すぐに弁解をしようとしたが、優人の気持ちと は裏腹にその女子生徒の視線は「彼」に向けられていた。
「彼」は生徒会の役員でもなんでもない。こうして他の生徒会役員がいない時に、生徒会室に入り浸っているだけだ。この生徒会室に似つかわしくない金髪に目がいってしまうのは当然の話だろう。今回ばかりは少し「彼」に感謝しながら、優人はいつもの「生徒会長スマイル」を女子生徒に向けた。
「あれ、どうかした?ほらキョウ、お前どっか行け」
「キョウ」こと村田恭輔は机の上に置きっぱなしだった鞄を乱暴にとってまた舌打ちをした。
「ユウ、教室」
「はいはい」
恭輔が扉に向かうと、彼女は驚いた様子でサッと道を開けた。二人に挨拶はおろか視線を向ける事無く、恭輔は去って行った。女子生徒はバン、と生徒会室のドアが不機嫌な音を立てて閉まったところで、口元に当てていた両手を下ろした。
「会長!村田先輩と仲良いんですか!?」
「あれ、知ってるんだキョウのこと」
「知らない人の方が少ないですよ!こんな近くで見たの初めてです!わー……」
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