スマイル

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スマイル

 スマイルは商店街の一角にあるハンバーガーショップだ。俺のアパートから歩いてすぐのところなので、ここのところ休日の昼食はここに通っている。しっかりと噛みごたえのあるパンと荒挽きの肉の感触が絶妙の組み合わせなのだ。    その日も俺はスマイルに足を運んだ。昼時はいつも中高生や親子連れでにぎわっているのだが、少し遅い時間だったのでそれほど混んではないだろうと踏んでいた。  店の手前でおやっと思い、足をとめた。数人の中学生が店の外に立っていたんだ。順番待ちで並んでいるのかと思ったが、そうではなかった。ガラス越しに中を覗き込んでいる。何を見ているんだろう、不思議に思いながら少年たちの横を抜けて店に入った。  スマイルの中ではジャージ姿の中学生が一人、注文カウンターでメニューを見つめていた。俺はその後ろに並ぶ。だが、目の前の中学生は挙動が怪しかった。ちらちらとカウンターの女子店員を見上げたり、肩越しに背後の様子を窺ったりして、妙におどおどしている。中学生はしばらくメニューをにらんでいたが、絞り出すようにして声をあげた。 「あの、メニューにある『笑顔』ですけど……」 「はい」  女子店員がにこやかに応える。年は二十歳かそこらくらい。きらきらとした目が印象的だ。いつもカウンターに立っているから、この店の娘さんなのだろう。後ろから眺めていて、彼女の胸元のネームプレートに気付く。丸っぽい字で『純恋(すみれ)』と書いてあった。 「0円で間違いないですか?」 「ええ、0円よ」  そう、この店のメニューにはいろんなハンバーガーや飲み物に並んで、『笑顔 0円』と書いてあるんだ。とあるチェーンのメニューにある『スマイル 0円』を真似したのだろう。 「注文は笑顔だけでもいいですか?」 「もちろんよ」  純恋さんはよどみなく答える。すると、中学生は上ずった声で注文した。 「じゃあ、笑顔をひとつ下さい。持ち帰りで」 「あら……」  純恋さんは目を瞬(しばた)かせた。
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