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あーあ、俺が勇者だったならな……。
洞窟の岩の冷たさが頬から伝わってくる。
反対に、お腹には火がついているかのような熱さを感じる。
俺、死ぬのかなあ。
ぼんやりした視界に、歯折れの剣が写っている。
王様に指示されて、洞窟の魔物退治に来たのは2日前。
総勢30名の兵士、しかも、剣や弓など、各分野に長けた兵士を集めた討伐隊だった。
自分も多少は、剣に自信があった。
それなのに。
少し頭を持ち上げて、目を凝らしてみる。
奥の方で、ミニドラゴンが暴れまわって、倒れた兵士たちに更に追い討ちをかけている。
ミニドラゴンが、あの鋭い牙で兵士を噛んで持ち上げる度に、うめき声や叫び声が響く。
退治に来る前の酒の席で会話したことのある奴は生きているのだろうか。
こんな状況なら死んでいた方が幸せだと思うけど。
ふーっと息を吐こうとしたら、口から血が出た。
少しずつ、息苦しくなってきた。
俺が勇者であったなら。
この状況を打破できたかもしれない。
仇を打つことだってできるかもしれない。
勇者は死んでも、神の使者であるから、神が生き返らせてくれるという。
ああ、少し羨ましいな。
「くそったれ……」
深い闇が後ろからやってきて、俺を飲み込んだ。
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