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祭り囃子の笛の音が、耳を澄ませば微かに聞こえる。
まだ、誰にも気付かれてはいないということだ。
焔はうっとりと自分を見上げる愛しい存在を確かめるように、ゆっくりと唇を寄せる。
薄く開いた隙間から忍んだ舌先は、すぐに欲しいものを見つけ出した。
「んっ、っふぁ………焔…」
ぴくりと強張る小さな身体から、儚げな吐息が漏れる。
名を呼ばれると、焔の胸に甘い疼きが走った。
焔にとって何ものにも変えがたい存在が、彼の腕の中にいる珠生だ。
幼馴染として育った彼らには、この世に生を受けた時からそれぞれに許嫁がいた。
今夜行われるのはお披露目の儀。
村をあげてこの日の為に準備を進めて来たことは、焔とて理解している。
村を繁栄させる為に必要な婚姻だった。
それは、隣村に住む珠生も同じこと。
あらかじめ決められた伴侶を迎え、村を、子孫を繁栄させることが、ふたりに与えられた唯一の使命だった。
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