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入社して早3年、今まで耐えに耐えてきた。石の上にも三年というのに従ってきた。だがそれも今日で終わりだ。憧れのあの子とのデートも夢物語で終わりだ。
もうやめてやる! こんなところ、二度と来るものか!
「え? 辞めちゃうんですか?」
退職願を出しに行こうとしたら、憧れのあの子が誰かと話しているのを偶然聞いてしまった。
「らしいよ。今日辞めるんだって」
ん? 俺のことそんな噂になってたのか?
「そうなんだー、なんか寂しいなぁ」
なにっ!?
「あんたあの人好きだったもんねー」
なっ、なっ!?
「止めてよ、そんなんじゃないって」
「でもバレンタイン気合い入れてたじゃない」
あれ? 義理だって言ってたよな?
「そうだけど、言えなかったのよ」
「え? じゃあなに? あの気合い入れた高級チョコ、なにも言わず渡したわけ?」
「うん、だって言い出せなくて」
ま、まさか!? いや美味しかったけど、え?
「どうするの? 連絡先は?」
「まだ聞いてない」
教えてない。
「聞かなくていいの?」
「うーん……」
ここで出てったらタイミング良すぎか? と、とりあえず退職願を出しに行くか……。
「でもなんであいつなわけ? あんたなら他にいい人いるんじゃない?」
「んー、なんか惹かれちゃうんだよね……あれ? 久保田くん?」
「どうしたの?」
「久保田くんがそこに居たような」
「気のせいじゃない?」
「本当に辞めるのか?」
「はい」
「そうか、残念だな」
内心喜んでるくせに、よく言うよ。
「それでは」
出て行こうとすると、あの子に出会した。……まさかな。
「お疲れさまでした」
「久保田くん?」
会社を出て、深呼吸する。
「久保田くん!」
帰ろうとすると、あの子がやって来た。
「どうしたんですか?」
「はいこれ」
渡されたのは、名刺だった。裏を見ると、連絡先が書いてあった。
「じゃあ、本当に―――」
「本当に?」
「ああ、いや、なんでもない」
皮肉なものだな、辞めて分かるなんて。
「連絡するよ」
「うん!」
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