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彼の背後に向かって、たくさんの人たちが走っていく。
たくさんの顔が迫ってくる。
恐怖と悲しみ、混乱。
人を掻き分けて進むことは簡単でなく、ついに脛に何かがぶつかった。
それはこの騒音の中でもよく通る泣き声をあげて、地面に転がる。つまり、子供だ。
逃げ惑う人たちに、足元の小さな命を気にする余裕はない。
勇者は乱暴に彼女の腕を掴んで引き上げる。
歳の頃は3、4歳といったところか。
抱き抱えると、短い腕を彼の首に巡らせて必死にしがみついた。
耳元で甲高い泣き声をあげて、涙で彼の肩を濡らした。
「…………ぅう…………いつもいつも……」
呪詛でも詠むかのような、低い声をだしつつ、彼は彼女の背中をポン、ポン、と二回叩いた。
ギュウと一回抱き締めると、彼女を引き剥がし、側を走り抜けようとした中年女性に押し付けた。
彼女は思わず受け取ったものの、一瞬立ち止まりそうになる。しかし、すぐ誰かに背中を押され、また、背後の混乱に現実を感じて走り出した。
ちゃんと子供を抱き締めて。
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