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そこは街の裏手、小さな噴水のあるバザールだった。
というのは、勇者がたどり着いた時にはもう、噴水は粉々になって泥水を吐き出し、雑然としながらもまとまりのあった屋台は、木っ端になった柱、ちぎれた布、野菜や果物はジャムになり、雑貨たちも土塊と区別がつかなくなっていた。
目の前の魔物は、恐らく精肉店にあった丸の豚肉をくわえているのだろう。
牙の間から、くたりと下がったそれは、生々しくブラブラと揺れていた。
魔物の型はオーガタイプで、体は二階建ての建物くらいだ。
食事中ということで、行儀悪くも涎をボタボタと垂らしている。
一応獣の革か何かの服はつけているが、教養などない。
よどんだ沼のような色の肌に、生臭い体臭を纏わせ、血色ばんだ眼をギラつかせていた。
「…………」
自分より、はるかに大きな相手を前に、勇者は何を思うのだろう。
ただ棒立ちになり、少しうつむき加減である。
右手を剣の柄に当ててはいるが、左手はダランとさげたままだ。
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