勇者やめます

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オーガは礫に怯むことなく、剣士を視界に捉える。 瓦礫を蹴り飛ばしつつ、体を剣士に向けると、黄色どころか、茶色く偏食した牙を剥き出しに低く唸り声をあげた。 牙を伝って、唾液が地面を濡らす。 辺りは異臭に満ちていた。 僧侶が建物を回り込み、勇者の背後へ近づく頃、オーガは剣士に掴みかかり、剣士は一層身を低くしていた。 彼女が勇者の腕を掴もうとした時だった。 剣士が一歩踏み込み、背後の剣を払いあげ様、振り落とす。 回転するようなステップで、さらに間合いへ入り込んだ。 掴みかかった巨大な手を、斬りはしないが、辛うじて弾き、オーガは多少身を崩した。 半歩後ずさった足の甲目掛けて、剣士は剣を突き立てる。 これは上手く筋や骨の間を抜いたらしく、刃の半分弱が呑み込まれた。 あまりの激痛に、オーガは叫び声をあげながら、剣士を弾き飛ばす。 剣士は壊れた屋台の中に、受け身も取れずに叩きつけられた。彼を隠すように、木片やテントの切れ端が崩れ込んでしまう。 もうもうと立ち上る土煙は、勇者の体も包んでしまった。
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