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「あの」
僧侶は驚いた。
視界を奪うほどの砂塵のなかで、勇者が彼女をにわかに振り返った、というのもあるが、彼の表情が無に等しかったからだ。
食堂で見た絶望も、オーガを目の当たりにした恐怖も何もない、何の感情も抱いていない顔だ。
あまりのそれに一瞬怯んでいると、彼は言葉を続けた。
「勇者、やめます」
「え?」
言葉は理解した。彼女がわからなかったのは、彼の行動だ。
彼は彼女の手を振りほどくと、剣の柄を握り、鮮やかに抜き放った。
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