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「い、伊崎さんはどうなんですか? 片桐さんとお付き合いされて、ちょっとは結婚に関して考えが変わりましたか?」
黙ってばかりだったけれど、少しだけ勇気を出して口を開いた。けれど、質問のチョイスを間違っていたことにすぐに気付く。なぜなら、ほんのわずかだけれど微妙な間が生まれたからだ。
「おいおい、そんなデリケートな質問、照れるじゃないか。奥野の想像にお任せするよ」
何もなかったかのように、すかさずそう返した伊崎さんに、
「デリケートな話を始めたの、あなたでしょ。その言葉、そっくりそのまま伊崎さんにお返ししますよ」
と枦山さんがかぶせる。
私は空気が戻ったことに胸を撫で下ろしながら、片桐さんを見た。彼女は話が聞こえていたのかいなかったのか、正面のオーナーさんに一方的に話しかけていた。
でも、わずかに顔色が曇って見えるのは、気のせいだろうか。このネガティブが、そう思わせるだけなのか。
私は話題が他へ移ってから、小さくため息をついた。
そうだよね、お似合いのカップルで交際が順調そうだからって、気軽に聞いちゃいけない話題ってあるよね。外側からじゃわからないことって、たくさんあるはずだもの。当たり前なのに……。
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