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【6階の厄介な住人たち】
【平橋 善】
『あーーー……甘やかされたい……』
厳かな音楽と柑橘系の香りが充満する部屋で、床に横たわるグレーのかたまり。暗闇の中でそのぼんやりとした明るさがごろりとうごめく。
『ハハ。やっぱり無様だわ、私』
まるで映画のワンシーンのようにそう呟いた彼女と目が合ったことを思い出す。
あれは、私が彼女に“無様”だと言った数日後のこと。その言葉に嘘はなかったが、自分の配慮のない言動が彼女をここまで追い詰めたのだと思い込み、救わなければと妙に駆り立てられた。
ただでさえ色白なのに、その顔は少しやつれたことで一層儚さを強調し、まるで日常から逃げて解放されたいと願っているようにも見える。彼女は否定したが、自分の人生において近しい死をいくつも目の当たりにしてきたからだろうか、見過ごすわけにはいかなかった。
それが、小夏を気にかけるようになったきっかけだ。なるべく話を聞き、涙さえ出せなくなっていた彼女に、世話焼き半分で手を差し伸べた。
『私は、善さんがコミュニケーションに問題があるとか、社会不適合だなんて思いません』
それが、いつの間にかこちらのほうが、漠然とした生きにくさを吐露していたのはなぜだろう。
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