【606号室 片桐 稜(かたぎり りょう)】

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「部屋に泥棒入って困るようなもんでもあるわけ?」   伊崎は「はぁ」と大きなため息をついて、 「いや、いい。お前には何言っても無駄だった」 と、煙草の灰を携帯灰皿に落とした。   伊崎は煙草を吸うので、ベランダに出ることが多い。 だから私は、暇だったり話し相手が欲しかったりする時には、とりあえずベランダに出てパーテーションをノックした。 すると、5分の1くらいの確率で伊崎が顔を出すから、仕事の話や恋愛の話を聞いてもらっていた。 「てか、伊崎んちの冷蔵庫開けたら、酒と生ハムしか入ってなかったよ」 「あれ? 水くらいはなかったか?」 「なかった。てことは冷蔵庫開けてないってこと? 夕飯は外だった?」 「昼食が遅かったからそこまで腹へってないし、まぁ、今から酒と生ハムでも」   なんて不摂生な男だ。
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