【606号室 片桐 稜(かたぎり りょう)】

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この体温を他の人間にやりたくない。 たとえ、条件に見合う都合のいい相手だったとしても、感情が伴わない相手だったとしても、そんなの嫌だよ。   アンタのバカ笑いも、無精ひげも、言いたくないような過去も全部引き受けるからさ、『仕方ねぇなぁ』なんて言いながら、手荒でもいいから、ねぇ、もう1回触れてよ。   「おい、こら起きろ、稜」 「あ?」   目が覚めると、伊崎に覗き込まれていた。 見渡すと、ここが自分の部屋で、ソファーに横たわっていたということを知る。 「……ハハ。前にもあったね、こういうの」 「ハハ、じゃねーだろ。ちゃんと調整して飲めよ。引きずりながらでも、支えて連れ帰るのは難儀なんだぞ」   仁王立ちしながら説教する伊崎を見上げ、ゆっくりと体を起こして頭を押さえた私は、なんだ、結局さっきのは夢か、と自嘲する。
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