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伊崎は私の斜め前に突っ立ったまま、呆れたようなため息まじりに、ふ、と微笑む。
それを見た私は、これでいいんだ、と自己暗示を繰り返した。
「よかったな。ちゃんと寝たか?」
「すぐそっちに持っていくなよ。まだだよ。ちゃんと段階を踏みたいんだ」
こうやって、嘘を重ねて。
「誘い方が足りないんじゃねーの? もっとこう生肩でも出してさ、ちっさい胸を寄せて迫ってみたら?」
「なんで私がそんな女みたいなことしなきゃなんねーんだよ」
いつものような掛け合いを続けて。
「ハハ、たしかに。稜は性別“稜”だもんな。扱いが大変だなぁ、犬っころも」
「うるさいよ」
気持ちに蓋をして、自覚する前のお面を被って、そばにいることを許してもらうために、慎重に、慎重に……。
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