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チノパンのポケットからライターを取り出した伊崎は、しかめっ面で何度かカチカチとして、ようやく点火したそれをベージュの陶器ごとローテーブルに置いた。
細い煙がのぼったかと思うと、ラベンダーの香りが部屋に漂い始める。
「稜」
「なんだよ」
「頑張れよ、犬っころと」
「言われなくても」
そう返した声がほんの少し掠れていたことを、伊崎は気付いていただろうか。
「じゃ、おやすみ」と言って部屋を出ていったヤツの後ろ姿さえ見れずに、私は玄関のドアが閉まった音を聞いた途端、両手で口を塞いだ。
「うっ……」
ひとりきりになった部屋に記憶を鮮明に呼び起こす香りが充満して、涙が止まらなくなる。
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