【606号室 片桐 稜(かたぎり りょう)】

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あの誕生日の夜に戻してほしい。 あの幸せな時間に戻してほしい。 ありのままの自分で甘えさせてくれる人間の体温を直に感じたい。 伊崎にとってもそういう存在になりたい。 叫びたくてたまらない心の内に、自分がこれほどまで伊崎に依存し、気持ちを持っていかれていたことに愕然とする。 好きだ。 好きでどうしようもない。 どうしようもないのに、好きだ。 「ううぅっ……ぐっ……」   隣の部屋に聞こえたらいけないから、声を殺す。 それでも、むせかえるようなラベンダーの香りが、記憶の中の私の揺れる影を壁に映し出し、その羨ましさで吐きそうになった。 「うぅー……」   あの日には戻れない。 でも、この感情を知らなかった私にも戻れない。   その日の私は、その香りと涙に溺れるようにソファーに沈み込み、そのまま自分を抱きしめながら眠りについた。    
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