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あの誕生日の夜に戻してほしい。
あの幸せな時間に戻してほしい。
ありのままの自分で甘えさせてくれる人間の体温を直に感じたい。
伊崎にとってもそういう存在になりたい。
叫びたくてたまらない心の内に、自分がこれほどまで伊崎に依存し、気持ちを持っていかれていたことに愕然とする。
好きだ。
好きでどうしようもない。
どうしようもないのに、好きだ。
「ううぅっ……ぐっ……」
隣の部屋に聞こえたらいけないから、声を殺す。
それでも、むせかえるようなラベンダーの香りが、記憶の中の私の揺れる影を壁に映し出し、その羨ましさで吐きそうになった。
「うぅー……」
あの日には戻れない。
でも、この感情を知らなかった私にも戻れない。
その日の私は、その香りと涙に溺れるようにソファーに沈み込み、そのまま自分を抱きしめながら眠りについた。
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