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「うぉーい、奥野、ちょい待て」
「えっ? はいっ」
「この数字、おかしい」
作成を頼んでいた書類をつまんでヒラヒラとさせると、奥野は受け取って確かめた後で、
「……ホントですね。すみません、すぐに」
と慌てて謝る。
社内のエアコンの温度は女性に配慮して設定しているから、額に汗の滲む俺は常備している扇子で仰ぎ、彼女を見やる。
「寝不足か? 枦山に、体がもたないからちゃんと寝かせろ、って釘刺しとけよ」
「伊崎課長、セクハラです」
すかさず返してデスクに戻る奥野に、俺はフハハと笑いながら背もたれにのけぞった。
「ハ……」
奥野の後ろ姿が歪んだ気がして、頭を押さえる。
寝不足はどっちだよ、と胸の内で毒づきながら、目頭をつまんだ。
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