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仕事が終わり、コンビニでビールとつまみを買った俺は、マンションのエレベーターからおりて、6階の通路を一番端の自分の部屋へと進む。
必然的に606号室の前を通ることになり、廊下側の部屋の灯りの有無がわかってしまう。
「…………」
このところ、隣の部屋からは物音ひとつしない。
テレビの音というよりテレビを見ながらのバカ笑いも、でんぐり返しでもしているのか寝相が悪いのか壁に足が当たったような音も、ベランダの窓を開ける音も、パーテーションにノックする音も、なにもしない。
時折灯っていたこの廊下側の部屋の灯りも、気付けばずっとついていない気がする。
「……越したのか? 稜は」
顎をさすって呟けば、無精ひげがざらりとした。
緩めた歩調を戻して自分の部屋の前まで来た俺は、ふんと鼻を鳴らして鍵を開けた。
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