【606号室 片桐 稜(かたぎり りょう)】

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夜8時半。 カチャカチャとマウスをクリックする音を無駄に響かせて、私はパソコンとにらめっこしていた。 フロアの奥にふたりだけ残っている男性社員がいるけれど、雰囲気で帰り支度をしているのがわかる。 というか、「寄って帰りますか」と笑い合っているところを見ると、今から一杯引っかけてから帰るのだろう。 うらやましい。 「もういいや。続きは家でしよう」   緊急で必要なわけじゃないので見切りをつけ、自分も帰り支度を始める。 デスクを横切った同僚たちに「お疲れ様でーす」と言って見送った後、首をぐるりと回して戸締り確認にかかった。 すると、部長のデスクに置かれたままだった飲みかけの湯呑みを見つけてしまう。
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