【606号室 片桐 稜(かたぎり りょう)】

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「あぁ、もう、見ちゃったら洗うしかないじゃないか」   自分が最後だし、仕方ない。 あのおじさん、朝一で熱い茶を欲しがるし。 そう思って給湯室へ向かおうとしたとき。 「あれ? 片桐さん、残業ですか?」   ドアが開いて、柿本くんが入ってきた。 手にはノートを一冊持っているだけで、どこかに外出していた感じはしない。 「あー、うん。もう帰るとこ。柿本くんは? 忘れ物でもした?」 「いえ、社長に呼ばれていろいろと話をした後、資料室にこもってたら、うっかりこんな時間になっちゃって」 「そっか、お父さんに……」 「えっ?」 「あ」   しまった。 私は彼のことを社長の息子だとは知らないていだった。 心の中で「あちゃー」と思いながら、眉間に手を当てる。
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