【607号室 伊崎 颯志(いさき そうし)】

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「もし本当にヤバめの不審者が来たら、助けろよ? 稜」   コンロの火をぼんやりと眺めながらそう言うと、 「逆でしょ。ていうか、その前に手を治してよ、いざという時のために」 と鼻で笑われる。 「お前を助けた勲章だろうが」 「わかったよ、伊崎のピンチには駆けつけて助けてあげるから」   身の回りの世話でその貸しは十分返せているはずなのに、稜は人差し指を上げて、「ひとつ貸しね」と言った。 「……」 なぜか無性に、ふっと沸いたこの心地よさを否定しなければいけないような気になり、 「あちぃから閉めよ」 と呟いて、カーテンを閉めるべく立ち上がる。 「エアコン効いてるのに?」 「眩しいんだよ」   窓際に寄ると、遠くに黒い雲の塊が見えた。 それがまるで黒煙のように俺を見ているような気がして、目を背けるようにカーテンを引いた。    
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