【606号室 片桐 稜(かたぎり りょう)】

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2日後、伊崎と帰り道にばったりと会った。 金曜だということもあり、飲みに行くかと意気投合して居酒屋に立ち寄る。 「最近その犬っころの話ばっかりだな、お前」 「犬っころって言うなよ。仔犬系の柿本くんだ」   ジョッキのビールをひと口で半分以上飲んだ伊崎は、口についた泡をぬぐいながら、「犬っころじゃねーか」と鼻を鳴らし、お通しの酢の物を食べた。 「まぁ、とにかく可愛い。素直さの破壊力ハンパない」 「稜は惚れっぽいなぁ」 「惚れたとは言ってないだろ」 「いいんじゃね? 今回は男相手なんだし、アプローチしてみたら。犬っころはイケメン稜に傾倒してんだろ?」   ニヤニヤしながらネクタイを緩める伊崎。 隣の座敷に通されてきた3人組のおっさんたちを見て、「どーも」と笑う。 「知り合い?」と聞くと「知らね」と答えるこの男は、いかにいい加減かがわかる。
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