【606号室 片桐 稜(かたぎり りょう)】

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「どのくらい?」 「10年以上」 「交際期間だよ?」 「そうだよ」 「それ、踏み込んで聞いていいやつ?」 「ダメなやつ」   伊崎はなんら変わらない表情でそう言った後、そばを通った店員のお姉ちゃんを呼び止めて、ビールのおかわりを頼んだ。 ついでに「可愛いね」とのリップサービスを忘れない。   過去になにかがあって、恋人を作らなかったり結婚願望皆無だったりするのは察していたけれど、コレくさい。 でも、触れられたくないとのことだから、触れないほうがいいのだろう。 「ま、飲むか。今日は割り勘にしてやるよ、伊崎」 「そこ、奢りじゃねーのか」   フハッと笑う伊崎に、「カンパーイ」と言ってジョッキを持ち上げる私。 「だから、俺はおかわり待ちだっての」   慰めようとしているのをお見通しの伊崎は、「下手くそか」と言って、私の頭を小突いた。  
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