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棚のラベンダーのサシェからか、仄かな香りが鼻を掠める。
伊崎の重みが、私に重なっていくのを感じながら、私は諦めてゆっくりと背中に手を回した。
目を閉じて、ようやく追いついてきた幸福感に身を委ねると、観念したのを察した伊崎が、また鼻で笑う。
「最後までするか?」
「……止められるの?」
以前と同じ質問に、
「どーだろうな」
と、試すような笑みを浮かべる伊崎。
「そこは、止められない、でいいでしょ」
そう言って私から口付けて見つめてやると、伊崎は盛大なため息をついて額を押さえた。
「……なんか、ホントお前には勝てる気しないわ。先が思いやられる」
伊崎が何気なく言った“先”という言葉に、目頭が熱くなる。
胸にじんわりしみわたり、それが私を満たしていく。
どんな先でも、一緒にいてやるよ。
親友のよしみで。
心の中でそう呟いた私は、伊崎に回す手にいっそう力を込めた。
《606&607号室編 おわり》
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