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別れた。
10月某日夜8時半、マンションの部屋の玄関。
中に入った途端、もしかしたら私号泣するかもしれないと思っていた帰り道の心構えはどこへやら、ただただ佇んで大きな息を吐ききる。
「……帰ってきた……」
毎日帰宅している601号室に、
「……ただいま」
なんて言って、皮肉っぽく微笑む。
おかえり、またひとりぼっちの私。
「……ハハ」
……違うか。
結局、ずっとひとりだった。
あの人にはもともと帰る場所があって、だからこそ、海外への赴任にもその大事なものを選んで連れていくのだ。
私ではない、ちゃんと書面での契約で結ばれたきれいな人を。
実は妻帯者だと、数時間前に告白してきたずるい人。
離ればなれになるから別れよう、それだけでよかったのに、バカ正直に言ってきやがった。
私が“一緒に連れていって”などと喚くとでも思っていたのだろうか。
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