【601号室 平橋 小夏(ひらはし こなつ)】

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「平橋さんは、なんで602号室に……」   その時、片桐さんが急に話題を変えた。 言ってしまってから反省したのだろう、 「あ……いや、言いたくなければいいです。ほら、生きてればいろいろあるって、平橋さんも言ってましたしね」 と頭を掻き、わかりやすく慌てている。   602号室か……。 そもそものきっかけは、あの部屋だ。 あの眼鏡男から鍵を受け取って、あの部屋に行かなければ、私は善さんと会うこともなかった。 会ったとしても、ただのマンションの賃借関係だけだった。 「あの部屋……」 「……はい」 「あの部屋の鍵、貰ったんです」 「え?」   正しく言うと、借りています、か。 そういえば、まだ返せていない。 まるで、善さんへの気持ちみたいに、ずっと手元から離れない。
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