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「平橋さんは、なんで602号室に……」
その時、片桐さんが急に話題を変えた。
言ってしまってから反省したのだろう、
「あ……いや、言いたくなければいいです。ほら、生きてればいろいろあるって、平橋さんも言ってましたしね」
と頭を掻き、わかりやすく慌てている。
602号室か……。
そもそものきっかけは、あの部屋だ。
あの眼鏡男から鍵を受け取って、あの部屋に行かなければ、私は善さんと会うこともなかった。
会ったとしても、ただのマンションの賃借関係だけだった。
「あの部屋……」
「……はい」
「あの部屋の鍵、貰ったんです」
「え?」
正しく言うと、借りています、か。
そういえば、まだ返せていない。
まるで、善さんへの気持ちみたいに、ずっと手元から離れない。
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