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ふざけるのが好きな彼の目の奥は、仄暗く濁っていた。
片桐さんはなんであんな厄介そうな男に熱を上げているのだろうかと疑問でならない。
外に出た私はスマホを取り出し、9時が回っているのを確認する。
そして発信履歴に善さんの名前を見て、彼の声を思い出した。
『そうか、体調不良なら仕方ない。本調子じゃないときの焼肉はよくないからな』
一度目は仕事を理由にして、二度目は体調を理由にして……いずれにしても嘘をついた。
『大丈夫か?』ってまた言ってたな、善さん。
なんか、いつも言われてる気がする。
無意識だろうから、ずるい。
そう言われたら、隠していた甘えがほんの少し顔を出しそうになる。
でも、大丈夫じゃない、とはとても言えない。
「こっちも……たいがい厄介だわ」
そう呟いた私は、ふ、と鼻で笑って、マンションへと帰った。
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