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社長ベタ褒めの満面の笑顔でそう言ってきた彼女に、「よかったわね」とだけ言ってその場を後にしてきた。
社会人にあるまじきその幼稚さを指摘する余力すら、私には残っていなかったのだ。
「……ふぅ」
そう、彼女は悪い子じゃない。
……悪い子じゃ、ない。
今まで何度も頭の中で繰り返してきた言葉を、呪文のようにまた呟く。
社長が認めるように、場の雰囲気を明るくさせてくれるし、意外と打たれ強いし、甘え上手だし……。
『多田を見習え』
「…………」
気付けば、まだ集合ポストの前で棒立ちしていた。
私は考えるのをやめて、エレベーターへと向かう。
足が重い、頭も重い、吐く息も重い。
なんて、そんな自覚を振り払うように早足で。
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