【601号室 平橋 小夏(ひらはし こなつ)】

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「え?」   何かを思いついたかのような善さんの声色に、私はまた彼の顔を覗きこもうとした。 けれど、抱きしめられたまま善さんの顎が私の頭にのってきたので、動きがロックされてしまう。 「一緒に住むことを検討してくれ。それなら郵便物の間違いがあっても問題ない」 「いえ……え? あ、あの……」   そこまで話を発展させるつもりはなかったので、心底うろたえる。 そんな私をよそに、善さんは淡々と話を続けていく。 「いっそ、籍を入れてもいいかもな」 「籍っ⁉」 「苗字が変わらないから楽だろう」   あまりにも自然に、なんてことないように言ってのける善さん。 私は驚いたり照れたりで忙しく、何も言えずに口をぱくぱくさせる。 すると、返事のない私を不思議に思ったのだろうか、善さんが「ん?」と頭上で顎をずらした。
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