【601号室 平橋 小夏(ひらはし こなつ)】

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「また、空気を読めていなかったか?」 「いえ……なんというか……あの……」   真っ赤になってしどろもどろ話していると、善さんのスマホの電子音が響いた。 くぐもっているその音は、さっきハンガーにかけたスーツのジャケットから聞こえる。   善さんがソファーから離れ、結局うやむやになったことがよかったのか悪かったのか、私は複雑な気持ちでこっそり深呼吸をした。 善さんは空気を読めていないというか……うん、心臓に悪いことはたしかで……。 「なんでこんなに急なんだ?」   その時、電話に出た善さんが、私の心の中と同じようなことを叫んだ。 驚いた私は、ぴっと背筋を伸ばし、姿勢を正す。 「もう予約しただと? そういうことは前もって……あ! おい……」
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