【6階の厄介な住人たち】

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ダメだな、私は。ずっとコミュ障を“仕方ない”でやり過ごしてきた結果がこれだ。大人になっても、上手に話も振れず、話を笑って受け流すこともできず、空気を悪くしてしまう。 「逃げちゃいますよ? ハッピーが」   今度は穂乃さんのほうから声をかけられ、ハッとした私は顔を上げる。言われて気付いたけれど、何度もため息をついていたようだ。そんなところも、不甲斐ない。 「枦山さんて素敵ですね」 「え?」 「気配り上手っていうか、空気読むのが得意っていうか。出世する男性って、こんな人なんだろうなって感じ」   ……すごい洞察力。まさしく、枦山さんはそれだ。でも、枦山さんが素敵であればあるほど、私のダメっぷりが引き立って卑屈になってしまう。 「そういう男の人って、外で気を張っているから、プライベートでは癒されたい人が多いと思うんです。奥野さんがしっかりその役割を果たしているんですよね、すごいです」 「え……いや、私はそんな」   この子は本当に年下なんだろうか。 「だって、枦山さんが奥野さんを見る目、すごく優しい。愛されてるの、伝わってきます。うらやましいなぁ」
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