６階の厄介な住人たち【2】

【606号室 片桐 稜（かたぎり りょう）】

私が働いているのは、インテリア、食器等を扱う会社だ。

ふたつの部門があり、ひとつは一般向けのインテリア雑貨店の展開、もうひとつは高級レストランやホテルからオーダーされた食器の受注、工場との中継ぎだ。

私は後者の方の部門で、営業やら広報やら提案やらと、総合的に表に出る仕事をしている。
とはいえ、１年前くらいから任されることがべらぼうに多くなってきて、加えて……。

「片桐さん、今日も同行させてもらってもいいでしょうか？」

この春に人事異動でこちらの部署に来た新入社員同然の２年目くんの教育も任されている。

表面上みんな知らないことになっているが、この23歳男子が社長の息子だということはほぼ全員が知っていることだ。

各部署でいろんな業務を研修させるため、社長が短期間で彼を人事移動させて回っていると、もっぱらの噂だ。