【606号室 片桐 稜(かたぎり りょう)】

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彼はとても真面目で謙虚で素直で、内緒にできていると信じているのもあるけれど、次期社長面などは決してしない。 いい子だ。いい子なのだけれど……。 「はい。……はい、もちろんです、そのように致しますので。また直接伺わせていただきますね。今後ともよろしくお願いいたします。では、失礼いたします」 「わっ、すみません、電話中だって気付かずに声をかけて」   ちょっとおとぼけさんなところがあったりなかったりする。 「柿本(かきもと)くん」   受話器を置いた私は、デスクの横に立って心底申し訳ない様子で謝るその顔を見る。 「……はい」   可愛い。 仔犬系で甘くて愛らしいマスクで、男版穂乃ちゃんみたいな……正直ドストライクな顔だ。 「大丈夫よ。でも、これからは気を付けてね」   微笑んでそう言うと、柿本くんは「はいっ」と大きな返事をした。  
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