【601号室 平橋 小夏(ひらはし こなつ)】

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「……また雨だわ」   仕事を終え、自宅のマンションまであと数分というところで、小雨がぱらついてきた。 最近よく降られるな、と思いながらエントランスへと走った私は、肩にかかった雨水の玉を手で払う。   いつもどおり集合ポストをチェックした私は、会社を出る間際に多田さんに声をかけられたことを思い返した。 『あ、平橋さん。そういえば私、この前クレームの電話を受けた時に、途中で平橋さんにお願いしようと思って保留にしたんですけど、ちょうど席を外されてたんで、“上の者と代わります”って言った手前、声色変えて平橋さんとして話しちゃったんですー』 『我ながらよく応対できたんですよー。褒めてください。私、もしかしたら、悪質クレーマーでも自分ひとりで最後まで受け応えできるかもです』
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