第九章

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「なんだ、まだ足りないか?」 「っ、そーじゃないから、触んな」  悪戯に腹下を辿る手をペシリと叩いて阻む。仁志は「残念だ」と笑いながらも大人しく手を退き、結月の隣に横たえた。  導く腕に素直に従い、結月も気怠い身体を汗ばむ肌へ寄せる。名残惜しそうに腰を撫でる手は、好きにさせておくことにした。 「……よかった?」 「大事な『パートナー』を抱いて、悪い訳あるか」  拗ねるような言い方に、結月はクスクスと笑む。髪を撫でる掌がたまらく心地良い。  身体の熱が和らいできて、全身を沈ませる疲労感に微睡んでいると、頭を往復していた掌が結月の左手を持ち上げた。親指の腹で指の付け根を軽く擦る仕草に疑問を覚え、結月は顔を上げ、仁志を見遣る。  これは言い出したい事を、渋っている顔だ。 「どうかした?」 「…………」  暫くの沈黙の後、仁志はやっとの事で口を開いた。 「……指輪、買うか」 「……え? っ、ええ!?」 「声が大きい」  近くに顔があることも構わず叫んだ事を叱咤され、結月は反射で「あ、ごめん」と返したが、それにしても、それにしてもだ。
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