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「ゆびわって……本気?」
言われた事で仁志が撫でるのが左手の薬指だと気付き、示す意図に結月は戸惑った。
仁志はずっと、結月の事を『恋人』ではなく『パートナー』と称していた。
それで、指輪だ。これで察せない程、馬鹿ではない。が、だからこそ、結月は素直に頷けない。
仁志は結月の指を撫で続けながら、重々しく言葉を重ねた。
「……師匠さんの方には事後報告になってしまうが、土竜さんには、以前の支払いの時に、『上手くいったらコレを結納金代わりにしてやる』と言われた。だから、問題はない筈だ」
「あんた一体いくら払ったんだよ……」
「心配するな、俺のポケットマネーだ」
「心配してるのはそこじゃないけど……まぁ、いいや」
金額もさることながら、本人の知らない所で話が進んでいたのもどうかと思うが、その点はもう目を瞑ろう。
撫でる力に、くっと力が入った。
「……逸見に、結月は嫌がるんじゃないかと言われた」
「…………」
結月が仁志の元から逃げ出したあの日、結月の言葉を聞いていた逸見は、その胸中に在る葛藤をよく把握してくれていた。
逸見の存在は結月にとって、良き相談相手で、頼れる理解者だ。
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