第九章

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「っ、お願いだから、させてよ。ちゃんと気持ち良くするから」  結月を大切だと言う仁志の気持ちを、疑いたくはなかった。  未知の一歩に躊躇しているだけならば、無理矢理にでも繋げてしまえば解消されるだろう。  だからどうか、これ以上阻まないでほしい。  だって幸い、結月は――。 「……『しかた』は、知ってるし」  自嘲気味に言いながら伸ばした結月の手が、仁志の昂ぶりに辿り着く前に、腕を取られた。  身体が大きく反転する。驚きに瞠目する先で、天井を背に見下ろす仁志の顰められた顔を見て、ああ、本気で拒まれたのだと結月は脱力した。  心が真っ白になる。  そんなに嫌だったのか。それならば、初めから無理なのだと言って欲しかった。  そう思うのに、虚脱する結月がなんとか発せられたのは、追及する言葉ではなく、弱々しい謝罪だけだった。 「……ごめん」  溢れる涙が止まらない。  震える腕は、押さえつける仁志の力に、痛みを感じたからではない。  小さく嗚咽を漏らす結月をただ無言で見下ろす仁志は、更にグッと眉根を寄せ、言い難そうに数度口を開閉させてから気まずそうに視線を逸らした。  唸るような、渋るような声が響く。 「……一般的には、三ヶ月だと見た」 「…………え?」  発された期限の示す意図が分からずに、結月は濡れた目で見上げる。  仁志はやはり苦々しい顔で、重々しく口を開いた。
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