君が好き

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 小学校6年生の夏休みの真っ最中、美也子は蝉の声を聞きながら、妹の礼子と自宅の縁側でスイカを食べていた。 目の前には父親が趣味で手入れしている小さな砂場付きの庭がある。 背後では扇風機が頭をブンブンうならせながら少し生暖かい風を運んでいる。 「それ食べたら、学校の夏休みの宿題、済ませてね」 母親がキッチンから叫んだ。 「はーい」 「はーい」 庭先の道路を、同じクラスの正也が自転車を押して通った。 「お、美也子、うまそうだな」 「ふふふ」 美也子は笑いながら庭先の柵に近付いた。 「どこ行くの?」 「兄ちゃんと虫取り」 「へぇ、ね、蝉、捕まえて来て」 「いいよー、持ってきてやるよ」 「いらない」 「何だよ」 「蝉の声、大好きなんだけど、形が嫌いだから見たくないの。だからね、うちの庭に逃がしておいて」 「変なヤツ、うん…できたらね」  美也子は変なヤツだ。ちょっと他の女の子とは違ってる。 でも一緒にいると楽しい。 正也は、美也子が大好きだった。
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