君が好き

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 大学生の夏休み、美也子は縁側に座って編み物をしていた。 この暑いのに、マフラーを編んでいる。 礼子がその様子を覗き込んでいた。 「暑そう。この暑いのに、よくそんなことできるね」 「だって、今から編まなきゃ間に合わないんだもん」 「中田さんって、誕生日、12月だったっけ?」 「うん、そう…」 美也子は嬉しそうだ。 「いいねー、ラブラブじゃん」 「ふふふ」 「蝉、うるさいね」 「…うん…」 美也子はたどたどしい手つきで毛糸を手繰りながら、視線を落とした。 「蝉の声、するね…」 「…うん…」 二人は、思い出していた。 正也は7年前の夏、虫取りに行った次の日だ。遊びに出かけたまま、帰らぬ人になってしまった。 噂では池にはまっておぼれた…らしい。 大人は子供に詳しい死因は語らない。 「夏なんかなくなればいいのに…」 美也子がつぶやいた。 「え?」 「正也君を思い出しちゃう…。蝉の声を聞くたびにね…」 「そうだね…」 二人は暫く黙った。 「ね、お姉ちゃん、」 「ん?」 「正也君、ホントに庭に蝉、逃がしてくれたと思う?」 美也子はぼんやりと庭を見回した。 「…思う…」
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