君が好き

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 庭に、ビニールの大きなプールが置かれていた。 毎日のように2歳の子供が水浴びをしている。 その横でその女の子の母親が、幸せそうに見守っていた。 美也子が買い物から帰ってきた。 「聡子さん、」 「あ、お義母さん、お帰りなさい」 「いいもの買ってきたのよ」 美也子は嬉しそうに鞄から手持ち花火を出して見せた。 聡子はニコニコしていた。 「わぁ、花火」 「今日の夜、しましょう」  その夜、父親と母親、美也子と啓太の三人家族…は、庭先で花火をした。 ジジジという音と共に火薬の匂いが立ち込め、煙が少し目にしみる。 やがてそれはパチパチという音に変わり、耳に心地よい。 火花が、綺麗だ。 一瞬のその映像はどんな形にも残せない。記憶に焼き付けるだけだ。 だが、静寂の蝉の目には何も映らない。 ただ、美也子の幸せそうな笑い声だけが響く。
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