君が好き

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 美也子は庭にあるテーブルに座り、周りを眺めていた。 喪服を着ている。 礼子が家から出てきた。やはり喪服を着ている。 「お姉ちゃん、ここにいたの…」 「…うん…」 二人はしばらく庭を見回していた。 礼子が一本の大木を指さした。 「ね、あの木、最初植えた時、10センチくらいだったよね、子供だった」 「…そうだね…」 「おっきくなったね…」 「うん…、お父さん、毎日ちゃんと手入れしてたもんね」 「…うん…そうだね、お父さんができない時はお母さんがしてたね」 「…うん、そうだね」 二人はまた黙った。 そして、二人は静かに涙を流した。 礼子が言った。 「とうとう二人とも、いなくなっちゃったね…」 「…うん…」 「ここで、スイカ食べたね、覚えてる?」 「…うん…食べた…」 美也子は指で涙を拭った。 礼子が流れる涙をそのままに、上を向いた。 「…相変わらず、蝉、うるさいね…どこにいるんだろう…」 「見えないとこ」 「どっかにいるよ」 「見えないとこだよ。だって、正也君に、見たくないって言ったから…」 「…そうだったね…」 「…だから、見えないとこに…」 「…何言ってんだか…」 礼子は泣きながらも笑っていた。
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